アップルが目論む、次なる覇権

iPhoneを起点に生活サービス全体のエコシステムを形成してきたアップルが、アップルウォッチを起点にヘルスケアを取り込もうとしている。

アップルウォッチ誕生秘話

ユーザーの立場で開発中の製品を使い、問題点を1つひとつ指摘し、技術者に解決させていく”プロダクトピッカー”のジョブズが、すい臓がんで入院した病院内のヘルスケアシステムが共有化されずバラバラだったことに失望。
患者という立場で『ユーザー体験』したのは、患者の健康データが、患者と医療提供者との間できちんと連携されることの重要性だった。

アップルがヘルスケア産業にもたらすインパクトは、ディスラプト(破壊)のひと言。

アップルはプラットフォームをめぐる戦い、生活サービス全般のエコシステムをめぐる戦いを仕掛けることで、音楽産業を破壊し、携帯電話産業を破壊してきたが、同じことが今度はヘルスケア産業で起こる。

アップルはサービス重視へと舵を切った

アップルは「ものづくり」企業で、2020年度(2019年10月~2020年9月)の売上高比率はiPhoneが50.2%、Macが10.4%、iPadが8.6%だが、サービス事業の占める割合が2割近く(19.6%)にまで上昇している。

「App Store」は世界中のアプリ開発者がアプリを提供・販売するプラットフォームだが、アプリ開発者はApp Store経由で得た販売額の3割を手数料としてアップルに支払っている。

サービスラインナップも、App Store、iTunes Storeのほか、「Apple Pay」「Apple Music」「Apple TV」などが加わっている。

次なる成長エンジンを模索

アップルウォッチはスマートウォッチに「メディカルデバイス」機能を追加することで、さらに付加価値の高いデバイスへと進化した。
サービス事業はユーザーと継続的な関係性や高いロイヤリティを構築するうえでメリットがあり、アップルが展開するデバイスとのシナジーも期待できる。

更に、アップルウォッチでパーソナルヘルスレコード(個人健康記録)を収集、それをユーザー自身が管理するようになると、他社サービスへ乗り換えるのにためらいが生じ、「ユーザー囲い込み」や「他社サービスへの流出防止効果」も期待できる。
今後、アップルのヘルスケアサービスが浸透し、やがて保険や公的サービスにも活用されてくれば新たなユーザー層を獲得できることにもなるだろう。

医療現場を変えるアップルのヘルスケア

アップルヘルスケア構造を支えるのは「スマートヘルスケアのエコシステム」としてのヘルスキットで、そこに蓄えられていくのは、(アップルデバイスや第三者アプリ開発事業者がサービス提供している)ヘルスケア、フィットネス関連アプリから取得されたユーザー個人の医療・健康データや、病院のカルテ情報などになる。
ユーザーは健康管理アプリ「ヘルスケア」で自分の健康データをチェックできるほか、将来的には医療機関との間でのやりとりにも使われることになるだろう。

アップルはこのエコシステムをサードパーティが展開するヘルスケア関連のIoT製品群にもオープンすれば、iPhoneやアップルウォッチはスマートヘルスケアのプラットフォームとして、さらなるヘルスケア関連の商品・サービス・コンテンツが展開されていくことにもなる。

さらに、リアルな病院やクリニックを運営する「アップルクリニック」も実現可能。
すでに自社製品を生かした社員用のクリニックを展開しているが、そこで高速PDCAを回して経験値を積み上げ、時機をみて一般向けに公開するかもしれない。

アップルウォッチとApple Fitness+

アップルウォッチは、健康管理、医療管理ウェアラブル機器として、シリーズ4以降ECG(心電図)機能を搭載している。

血中酸素濃度センサー:シリーズ6から搭載された機能。背面赤外線センサーが約15秒で血 中酸素濃度を測定。
ユーザーは血中酸素レベルを確認でき、どう変化するのかも追跡可能。
心拍数の通知:バックグラウンドで心拍数をチェックし、重い症状の兆候を探る。
心電図アプリケーション:シリーズ4以降搭載。頻拍や動悸などの症状の発生や不規則な心拍をチェック。
メディカルID:救急隊員や緊急治療室の医療従事者が、パスコードなしでユーザーのiPhoneのロック画面やアップルウォッチから重要な医療情報を確認する仕組み。

「Apple Fitness+」は、ヨガやダンスのワークアウトをコーチのインストラクション映像と音楽とともに配信するサービス。
アップルウォッチやiPhoneと連動しているので、アップルウォッチで計測した心拍数データとiPhoneなどで見るコーチング動画が同期するほか、専属トレーナーがデータにもとづいてワークアウトのトレーニングを提案可能である。

アップルが目指すもの

5G時代に突入し、AR/VRが浸透し、MR(複合現実:第4のプラットフォーム候補)が現実のものになりつつある今、サービスの進化は、ハードの進化とパラレルで、iPhone12には「LiDAR(ライダー:自動運転車に不可欠のレーザー光を用いたセンサー技術)」が搭載され、3Dオブジェクトを現実世界に重ね合わせるARアプリが開発されている。
であれば、ものづくり企業アップルのヘルスケアエコシステムは、ハードの進化と同時並行で起こると考えるのが妥当だと思う。

デバイスの高機能化は、人間が指示をしなくてもこれまでの行動パターンや予測機能により、デバイスやシステムを人間の代わりに操作するコンピューターに近づいていき、スマホなどデバイスがなくてもサービスが受けられる夢物語のような世界になるかも‥。

アップルならやりかねない。