マダニ感染症が突きつける、愛し方の新ルール

家庭においてペットは、もはや「愛玩動物」ではなく、寝食を共にする「家族の一員」です。しかし、この美しき親密さが、かつてない致命的なリスクを招き寄せていることをご存知でしょうか。マダニが媒介する感染症「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」の脅威です。

 私たちが今直視すべきは、致死率最大30%という数字の恐ろしさだけではありません。それは、私たちが「愛情」だと思い込んできた無防備な振る舞いが、大切な家族を崩壊させる引き金になり得るという残酷な現実です。

1. リビングに潜入する「見えない脅威」

 かつてSFTSは、山林や農地でマダニに直接噛まれることで発症する「屋外の病」でした。しかし近年の報告では、散歩から帰ったペットの体液(唾液など)を介して、飼い主が家庭内で感染するケースが目立っています。 顔を舐めさせる、同じ布団で眠る——。これらの行為は、科学の目で見れば、高度に危険な「濃厚接触」です。たとえマダニ対策をしていても、ペットが「無症状の運び屋」となってリビングに潜んでいる可能性は否定できません。

2. 「ただの風邪」という罠

 SFTSの初期症状は、発熱や倦怠感、腹痛といった「ありふれた風邪」と酷似しています。ここに大きな落とし穴があります。受診時に「ペットとの接触状況」を詳細に申告する人は少なく、原因不明のまま重症化する例が後を絶ちません。早期診断のためには、医師にペットの有無や健康状態を伝えることが、今や必須の生存戦略なのです。

3. 「愛し方」をアップデートする

 人間、動物、環境を一つの健康体として守る「ワンヘルス」の理念は、私たちに「健全な境界線」を求めています。 駆除薬の投与は「防疫」であり、寝室を分けることは「共生のための知恵」です。昭和的な「無防備な親密さ」が美徳とされた時代は終わりました。真の愛情とは、感情のままに触れ合うことではなく、科学的な知識に基づき、互いの命を守るために適切な距離を保つことにあるのです。