「命」が家電になる日

パナソニックが仕掛ける「医療の家電化」

「人生100年時代」という言葉が、どこか空々しく響く時期があった。高度な再生医療は5,000万円で「富裕層」だけの特権だったからだ。しかし今、日本の「家電屋」がその分厚い壁を打ち砕こうとしている。

パナソニック ホールディングスが開発した、iPS細胞の全自動培養装置。これがもたらす衝撃は、高度再生医療を誰もが享受できる「メンテナンス」へと変貌させる、いわば「医療の家電化」である。

「職人芸」を「工業」へと

これまで自分自身の細胞から作る「マイiPS細胞」は、クリーンルームという巨大な施設で、熟練の作業者が「手作業」を行っていた。いわば、最先端医療でありながら、その実態は究極の「家内制手工業」だったのである。

ここに、パナソニックは「ものづくりのプロ」としての視点を持ち込んだ。家電で培った自動化・省力化技術を応用し、密閉された装置の中で24時間、ロボットに細胞を洗わせ、培地を交換させる。 巨大な施設を不要にし、人件費を削ぎ落とした結果、コストは50分の1以下へ。5,000万円の「高嶺の花」は、100万円を切る「中古車」の感覚へと引き下げられた。

医療が「電力」に依存する時代

もし100万円で自分の細胞を「おかわり」できるなら、医療の定義は「治療」から「劣化したパーツの交換」へと変質する。毎年、心筋や網膜を新品に入れ替える——それはもはや、自動車の車検に近い感覚だ。

全自動装置が24時間稼働する未来では、寿命を左右するのは医師の腕ではなく、「電気代」と「半導体の供給」になる(のかもしれない)。

「不完全さ」という新たな贅沢

全身を最新パーツに差し替えた「完璧な老人」が溢れる世界では、シワを刻み、自然に老いていくこと自体が、「不自然な加工を拒む高潔さ」として、新たなステータスになるのかもしれない。 パナソニックが壊した「価格の壁」の向こう側に広がるのは、「健やかな長寿社会」なのか、それとも「命のメンテナンス」に追われる終わりのない日常なのか‥。