銀行の代わりは”個人マネー”
未公開企業が注目するプライベートクレジットの正体
未公開企業の経営陣にとって、資金調達の景色が劇的に変わりつつある。かつてはメインバンクの顔色を伺い、厳格な担保設定と保守的な審査に奔走するのが常識だった。しかし今、その「資金の出し手」の背後にいるのは、世界的な機関投資家、そして日本の「個人投資家」たちだ。
銀行が去った空白を埋める
背景にあるのは、銀行を取り巻く規制の強化だ。バーゼルIIIをはじめとする自己資本規制の影響で、銀行はミドルリスクの融資やLBO(買収)ローンから手を引き始めた。この空白地に流れ込んできたのが「プライベートクレジット」である。
特筆すべきはその「リテール化」。年利10%超というかつての定期預金では考えられない高利回りを武器に、大手証券会社を通じて個人の資産が未公開企業の事業資金へと流れ込んでいる。低金利に沈んできた日本の家計にとって、この「高利回りへの渇望」は凄まじい。
「不便さ」を売る
一般に10%の利回りは、倒産リスクの高さ(デフォルトリスク)を連想させるが、実態は少し異なる。この高利回りの源泉は、企業の信用不安以上に、市場で自由に売買できない「流動性の低さ」への対価、つまり「すぐに現金化できない不便さ」に対するプレミアムだ。その一方で、経営側から見れば「腰を据えた資金」を確保できるメリットになる。株価の変動に一喜一憂する公開市場とは異なり、相対での対話が可能なプライベートクレジットは、事業承継やM&Aといった長期的な戦略と相性が良い。
景気後退期の懸念
最大の懸念は、景気後退局面での個人投資家の動向だ。もし不況が訪れ、不安になった個人が一斉に解約を求めたらどうなるか。運用会社が資金を回収するために融資を引き揚げれば、本来成長できるはずの企業が資金ショートに陥る。個人マネーの引き揚げが、自らの投資先を破綻させるシナリオだ。
経営者に求められる「選別の眼」
今、未公開企業の経営者に求められているのは、「誰の、どのような性質の金を借りるのか」という選別眼だ。
個人マネーの流入は、日本に「貯蓄から投資へ」という新しい血流を生んだ。だが、その血流が未公開企業を支える「良薬」となるか、それとも有事に牙を向く「劇薬」となるか。
直接融資という資金の「出口」と「覚悟」を冷徹に見極める必要がある。


