抗菌薬と逆転の生存戦略
いま、人類は新型コロナウイルスを超える「目に見えない巨大な脅威」に直面しています。それが、抗菌薬(抗生物質)が効かない「薬剤耐性菌(AMR)」です。直接の死因だけで年間約120万人。この数字は、私たちが当たり前のように享受してきた「感染症は薬で治る」という医療の前提が、音を立てて崩れ始めていることを示しています。
1. 進化の罠——「皮肉な構図」の拡大
抗菌薬の普及は人類を救いましたが、不適切な使用や乱用が、皮肉にも抗菌薬を跳ね返す「最強の菌」を育ててしまいました。 さらにこの脅威は、もはや病院内だけのものではありません。ペットを介した感染や、地球温暖化によって菌が活性化し、耐性を強めるという環境要因も指摘されています。人、動物、そして地球環境。この三つの健康を一体として捉える「ワンヘルス」の視点がなければ、もはやこの「静かなるパンデミック」を止めることは不可能です。
2. 「薬を欲しがる」意識が招く限界
現状を打破できない背景には、私たちの社会構造があります。安易に「強い薬」を求める患者側の意識や、新型抗菌薬の開発停滞、そして細菌の凄まじい進化スピード。これまでの「菌を叩く」という一方的な手法は、生物学的な限界を迎えつつあります。
3. 次なる一手、ファージセラピーの衝撃
絶望的な状況の中、世界が熱い視線を注いでいるのが「ファージセラピー(バクテリオファージ治療)」です。 これは「細菌だけを標的にして殺菌するウイルス」を活用する、究極のピンポイント治療です。特定の耐性菌に対してのみ牙を剥き、体内の有用な菌には一切影響を与えない。いわば「菌を殺すためにウイルスを味方につける」という、これまでの常識を180度変える逆転の発想です。

https://yoboukai.co.jp/article/1864/
「共進化」の時代へ
薬剤耐性菌の問題は、単なる医療の失敗ではなく、自然界との向き合い方の失敗です。抗菌薬に頼り切る時代は終わりを告げようとしています。「薬を欲しがる」前に、私たちは菌との進化の歴史を学び直し、ファージのような新しい科学の知恵を正しく選ぶ必要があります。この危機を乗り越えられるかは、私たちの「知的な生存戦略」のアップデートにかかっているのです。


